「幽霊なんて怖くないッ!!」
「さよなら」
【薄暮side】
………
……
…
幽霊との戦いから離れ、カゲロウと対峙する。
雨音さんと氷雨くんはいいコンビネーションを見せているし、二人とも強い。
だから二人のことはほとんど心配していなかったけれど、杏さんを一人残すというのはやはり心配だった。
雨音さんたちと杏さんとの距離は少しだけ開いていたから、お互いをカバーし合いながらというのは難しいんじゃないかと思う。
だけど、それでもカゲロウを逃がすわけにはいかない。
杏さんを連れて追おうかとも思った。 だけど、僕は彼女を置いてきた。
「『カゲロウの血』を置いてきてよかったのか? 彼女一人では2分も持たないよ?」
カゲロウは薄い笑みを浮かべてそう言った。
確かにそう。
彼女一人ではそう長くはもたないし、いずれ死ぬ。
……でも、彼女は一人じゃない。
この山には、『カゲロウの血』が もう一人居る。
「カゲロウ。 ユキさんを助けたのは誰だと思う?」
「……なに……?」
「瀕死の彼女の命を救ったのは誰だと思う? と聞いているんだ」
数メートル先に居るカゲロウは、ユキさんを抱えた状態のまま眉間にしわを寄せた。
「……『カゲロウの血』が死ねば、その力は雪へと移る。 俺がそう決めたんだ、それ以外には無いだろう?」
「つまり、八峠さんが死んだと?」
「……そうだな。 雪が蘇ったということは、つまりは そういうことだ」
その言葉を受け、口元に自然と笑みが浮かんだ。
カゲロウは気付いていない。
八峠さんはまだ生きている。 そして、杏さんと共にこちらへ向かってきていることを、カゲロウは知らないんだ。
「……何がおかしい」
「何もおかしくはないさ。 ただ、『カゲロウの血』は本当に……というか、お前の力は本当に凄いなって思っただけだよ」
「……俺を馬鹿にしているのか? お前だって、やろうと思えばやれることだろう?」
「どうかな。 僕の力は、カゲロウほど強くはないから」
他人の力を無理矢理にもらえば、強くはなると思う。
でも、それをやろうとは思っていない。
それをやってしまったらカゲロウと同じ域に落ちてしまう。
そんな風に思っているから、僕は自分の力だけで精一杯に戦ってきたんだ。