「幽霊なんて怖くないッ!!」
「カゲロウ。 僕はお前を殺すよ」
……そして僕も死ぬ。
カゲロウが居なくなればユキさんはただの人間に戻って、命を全うするだろう。
不老不死なんて、初めからあっちゃいけなかったんだ。
「……死に損ないが。 俺に勝てると思っているのか?」
「勝てないだろうね。 僕一人の力じゃ到底無理だよ。 でも……──」
静かに見上げた空から、『何か』がキラリと光りながら飛んでくるのがわかった。
あと7秒。
ソレに備えて右腕を構えた時、カゲロウもまたソレに気がついた。
「──……僕は一人じゃないんだよ、カゲロウ」
「……っ……馬鹿なっ……!!」
キラリと光ったソレは、何年も前から愛用している小刀で。
その小刀は、十数年前……まだ八峠さんと接触していなかった頃に、『カゲロウの血』の男性から譲り受けた物だった。
「うん、無事受け取ったよ、八峠さん」
小刀は物凄い勢いで飛んできたけれど、それでも止めるのは容易いものだった。
やっぱりコレは握りやすい。
そんなことを思いながらいつものように小刀を構え、笑みを見せた。
先の戦いで刃は少し欠けてしまったらしいが、でも大丈夫。 八峠さんと杏さんの力が僕と僕の刀を強くする。
「何故だ……八峠 祥太郎は死んだはずだろう? 雪は……彼女は蘇ったじゃないか……」
「彼女の中に流れている力は、杏さんや雨音さんや氷雨くんのものだよ、気付いていなかったか?」
「……『カゲロウの血』が、雪を……?」
「そう。 大切な人を失った杏さんが、ユキさんを助けたんだよ」
何故そうしたのかはわからない。
でも、彼女たちはユキさんの命を助け、確かに守ろうとしていた。
「ユキさんのことは助けるよ。 だけどお前のことは許せない。我欲を満たすために他人の命を奪うなんて、そんなことは絶対に許しちゃいけないんだ」
「……俺は、守りたかっただけなんだ」
「みんなそれぞれ守りたいものがある。 それを最初に壊したのはお前だよ、カゲロウ」
カゲロウとの距離を一気に詰める。
「……くっ……」
「終わりだよ、カゲロウ。 僕の勝ちだ」
僕だけの力だったら、僕はカゲロウに追いつくことは出来なかった。
でも今は違う。
小刀に込められた八峠さんと杏さんの力を、僕は自分の体の中へと送り込んだ。
だから。
「さよなら、薄暮 陽炎」
僕はもう負けない。
血の繋がった弟を討ち取ることによって、今度こそ戦いは終わったんだ。