「幽霊なんて怖くないッ!!」
それから……
【杏side】
………
……
…
あれから1ヶ月が経った。
「……よしっ、今日も頑張りますかっ」
鏡の前で髪をちょんちょんと直し、自分に自分の笑顔を見せる。
山奥での戦いが終わってから1ヶ月。
私は今日もまたいつもと同じように学校へと向かって歩き出した。
「双葉ちゃん、おっはよー」
「おはよ、氷雨くん。 オサキも、おはよ」
ぶんぶんと手を振る氷雨くんと、その横にちょこんと座るオサキ。
あの戦いのあと、オサキはすっかり氷雨くんに懐き、いつだって行動を共にしている。
二人はいつも くだらないことを言い合っているけれど、なんだかんだで楽しそう。
オサキの姿は普通の人には見えていないから、私たちが学校で授業を受けている時のオサキは、話し相手が居なくて とにかく暇そうだったけどね。
「イツキさんは、今日も雨音さんと一緒?」
「うん、さすがにオサキみたいにずっと隣に居るのは無理だけど、遠くから見守ってるっぽいよ」
「……ストーカーみたいだねぇ」
「だよなぁ。 でもイツキさん曰く『それが使命』らしいし、あのオバチャンはそれで満足してるから」
そんなことを言いながら、私たちは笑い合う。
カゲロウの使い魔だったイツキさんは、今は雨音さんのそばに居る。
氷雨くんが言ったように、『それが使命』。
あの戦いの数日後、雨音さんとイツキさんは正式に契約を結び、イツキさんは雨音さんの使い魔となった。
元々イツキさんを蘇らせたのは薄暮さんだったけれど、薄暮さんとの契約は『山からみんなを救い出すこと』であり、『そのあとは自由にしていい』だったらしい。
だから雨音さんはイツキさんを引き取ることにし、今は一緒に生活をしている。
イツキさんの使命は、『雨音さんを守ること』だ。
四六時中 一緒に居て、一緒に居られない時はこっそり遠くから見守っているなんて、私たちが見ればストーカーこの上ないけれど、雨音さんは全然気にしていないし、むしろ満足げ。
雨音さん曰く、『私を大事にしてくれるイケメンの彼氏』なのだとか。
「八峠さんは そろそろ退院だっけ?」
氷雨くんの言葉に、私は大きく頷いた。
この1ヶ月、八峠さん……ううん、祥太郎さんは病院での入院生活を送っていた。
見た目は元気。でも あちこちの骨が折れてるし、内臓も実は血だらけになってヤバい状態だったらしい。
『生きてるのが不思議』と医者に言われるほど、彼の体は弱っていた。
その入院生活が、ようやく明日、終わるのだ。