「幽霊なんて怖くないッ!!」
「──ということで、八峠さんは双子の方に行ってることが多いんです。
僕も杏さんから電話があるまでは、向こうに居ることが多かったんですよ」
楽しそうな顔のまま言う薄暮さんは、背もたれに体を預けながら足を組んだ。
……やっぱり彼の動作一つ一つが、とても色っぽい。
男性に『色っぽい』なんて使っていいのかどうかわからないけれど、彼はすべてが綺麗だった。
「杏さん」
「……え? あっ……」
ついつい見とれてしまっていた私に、薄暮さんはにっこりと笑いかける。
その笑顔もまた綺麗で、私はまた、目が離せなくなっていた。
「僕はそろそろ外に戻ります」
「あっ、わかりましたっ……」
「ゆっくり休んでくださいね。 あぁそうだ、明日もご両親はお仕事がありますよね?
ご両親が家を出たあとに八峠さんが来ると思いますので、待っていてください」
「え、でも双子ちゃんのところは……?」
「そちらには僕が行きますので大丈夫です。 休日なので親も居ますし、ほとんど心配はないでしょうけど」
……明日は薄暮さんが居ない。
つまり、私と八峠さんは二人きりということになる。
「ふふっ、明らさまに嫌そうな顔ですね」
「……すみません。 なんか、薄暮さんが居ないと不安で……」
「大丈夫、彼は僕よりも強い力の持ち主ですから、いざとなれば ちゃんとしますよ」
薄暮さんよりも強い力の持ち主。
そう聞いても、やっぱり私は不安なままだった。
(だって、薄暮さんに指示してるところしか、見てないし……)
そんなことを思いながら息を吐く私に、薄暮さんはやっぱりどこか楽しそうに笑っていた。