「幽霊なんて怖くないッ!!」
──40分後。
お風呂場から戻ってきた八峠さんはソファーにどっかりと腰を下ろし、私の持ってきたコーヒーを静かに飲んだ。
「……不味い」
「え……インスタントですけど、ちゃんと分量通りに作りましたよ……?」
「砂糖を大さじ2杯追加だ」
「……もしかして昨日もそんなに甘いのを飲んでたんですか? 病気になりますよ?」
「いいから、砂糖」
ジロリと睨まれ、冷や汗が流れる。
これ以上は何も言わずに黙ってた方がいい。 じゃなきゃ次は怒鳴られそうだ。 と、そう思いながら、コーヒーに砂糖を追加した。
「おい、双葉 杏。 カゲロウが呪術師だという話は聞いているな?」
「また、フルネーム……」
「返事」
「……はい、聞いてます」
「では、『人を呪わば穴二つ』という言葉は知ってるか?」
人を呪わば穴二つ……聞いたことはあるけれど、意味はよくわからない。
そんな状態でどう返事をすればいいかわからずに八峠さんを見つめると、彼はコーヒーを飲んだあとに静かに話し出した。
「穴というのは墓穴のことだ。 一つは呪った相手の分で、もう一つは呪いをかけた自分の分。
相手を殺すほどの呪いがノーリスクなどあり得んだろう? 相手を呪い殺せば、自分もまたそれ相応の呪いを受ける。
だから『人を呪わば穴二つ』だ」