「幽霊なんて怖くないッ!!」


ゴクリ、と唾を飲み込む。

緊張のような、恐怖のような、自分でもよくわからない感情の中で、私は冷や汗をかいていた。


そんな私を真っ直ぐに見る八峠さんは、コーヒーを少しだけ飲んでから また話し始めた。




「普通 呪術師というのは、見知らぬ誰かからの依頼を受け、見知らぬ誰かの命を奪う。 それが普通の流れだ。
では、見知らぬ誰かに依頼されて見知らぬ誰かを殺した場合、『人を呪わば穴二つ』の二つ目の穴は、誰の穴になると思う?」

「え? えっと……呪いをかけたのは呪術師だから……やっぱり、呪術師の穴になるんじゃ……?」

「あぁ、そうだな。 どんな理由があろうとも、呪いをかけた人物に呪いは返る。 それは普通の流れだ。 普通の、な」




……『普通の』を強調して言う八峠さん。 彼が言いたいことは、なんとなくわかる。

普通はそうだけど、カゲロウは違う。 きっとそうなんだ。




「……カゲロウには、呪いは返っていないんですね……?」

「あぁ、そうだな」

「じゃあもう一つの穴は……」


「依頼してきた見知らぬ誰かへと返ってるよ。 呪いを受けた誰かと同じくらい、苦しみながら死んでいったはずだ」




……予想はしていた。

でも、本当にそうだったとは……。




「ま、自業自得だな。 リスクを恐れて呪術師に依頼したんだろうが、呪術師だって死にたかぁないから当然の流れだろうよ。
カゲロウに限ったことじゃなく、ホンモノの呪術師なら誰だってやってることさ」

「……」

「じゃあここでもう一つ問題だ。 依頼があった場合は依頼主へと呪いが返る。
では、カゲロウが自分の意思で誰かに呪いをかけた場合、呪いはどこへ返ると思う?」


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