「幽霊なんて怖くないッ!!」
「なぁ、双葉 杏」
またフルネーム……。 だけどもう、そのままでいい。
きっと彼は、何度言っても『双葉 杏』と呼び続けるはずだ。
だから私は名前のことは気にしないことにして、『なんですか?』と当たり前のように返事をした。
そんな私を見る八峠さんは、どこか嬉しそうに笑っている。
「俺は、お前から連絡が来るのを待っていたんだ」
「……え……?」
「俺からお前に連絡をするのは簡単だが、『お前から連絡が来た』ということに意味があるんだよ」
カップを置いた八峠さんが、私の髪を優しく撫でる。
表情は相変わらず楽しそうだけど、声は心なしか優しい。
……なんでだろう、八峠さんがそばに居てくれると凄く安心するし、あったかい気持ちになる。
変な人だ変な人だと思っていたけれど、案外優しい人なのかもしれない。
「そのまま動くなよ」
「え……」
「大丈夫、悪いようにはしない」
頭を撫でる手と逆の手が、私の体を引き寄せる。
私……今 八峠さんに抱き締められている……。
「や、八峠さん……?」
「すぐ終わるから、そのまま動くな」
「は、はいっ……」
ドキ、ドキ、ドキ……。
耳元で聞こえる八峠さんの声に、鼓動が急激に速くなる。
八峠さんと私は今、 二人きり……。
八峠さんは遠い遠い親戚。 それがわかっているのに、胸のドキドキは増していくばかりだった。
そして……──、