「幽霊なんて怖くないッ!!」


「……まさか八峠さんが私に呪いを?」

「お前は馬鹿か? 身代わりの身代わりって言っただろうが」




そう言いながら、八峠さんは携帯を取り出して電話をかける。

電話の相手は多分 薄暮さん。 というか、十中八九 薄暮さんだ。




「あぁもしもし、俺だけど。 例の人形って今どこ? え? あぁそうか、わかった」




そんな短いやり取りだけで電話を切り、八峠さんはコーヒーを飲みきってから立ち上がった。




「昨日、お前の部屋に準備したそうだ」

「……え?」

「身代わり人形だよ。 ハクが、お前の部屋に置いていったらしい」




薄暮さんが身代わり人形を?

……そんな動作は一度も無かったのに、いつの間に……。




「つーことで、お前の部屋に行くぞ」

「……はい? え、いや……え?」

「なんだよ、見られたらマズい物でもあるのか?」


「べ、別に無いですけどっ……でも、いきなり人の部屋に入るとか、非常識じゃないですかっ……?」

「ハクだって勝手に入っただろ」




う……確かに、そうだけど……。

でも薄暮さんは八峠さんと違って紳士的だし……何よりも、カッコイイし……。





「お前、ハクに惚れたって いいことなんか何もねぇぞ?」

「なっ……ほ、惚れ……惚れてませんよっ……!!」

「だといいがな」




ニヤリ、と笑うその顔を見ながら、私の顔は一気に赤くなる。


……私は、薄暮さんに惚れたわけではない。

カッコイイって思うし、優しくて素敵だなぁとも思うけど……って、それが『惚れてる』ってこと……?




「アイツはあんな“なり”をしてるが女だぞ、気を付けろ」

「……え!? お、女……!?」

「嘘だよ。 どっからどう見ても男だろ。 まったく、お前は面白い女だな」




う……なんてヒドい人だ……。

私のことをからかってニヤニヤ笑って、『あ、髪の毛落とした』とか言って また抜こうとしてくるしっ。


ほんっとにもうっ、八峠さんなんか大嫌いだっ!!


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