「幽霊なんて怖くないッ!!」
その姿は、キツネ……というか、イタチ?に似ているけれど、体の大きさは小型犬よりも少し小さい。
八峠さんが『オサキ』と呼んだその動物は、行儀よく座りながら微かな笑みを浮かべた。
『よかった、あなたは僕を知っているのですね。 説明を省けるので ありがたいです』
「あぁ、幽霊は嫌いだが妖怪は好きだよ」
『それは嬉しい。 僕も彼らのことはどうにも好きになれないのですよ。 あなたとはよい友達になれそうだ』
「で、オサキがなんでこんなところに? 俺に用か? それともコイツに用か?」
……和やかに話をしていた八峠さんとオサキだけれど、八峠さんが私のことを『コイツ』と言った瞬間、少しだけ空気が変わった。
オサキに変化はない。
変化があったのは八峠さんの方だ。
言葉の感じは最初とまったく変わらないけれど、八峠さんはボクシングの選手のように片足を下げて両手を構えた。
相手と一定の距離を保ち、コチラに侵入してきた奴を一瞬で殺る。
その構えが、すべてを物語っていた。
『そう警戒なさらずに。 僕は人を探しているだけなんです』
「そいつの名は?」
『名前……うーん、名前ですか……。 彼の名はなんと言ったか……いやね、300年も前のことなので、どうにもこう、思い出せなくて』