「幽霊なんて怖くないッ!!」
八峠さんは慣れた手つきでバッグを開け、中から5体の藁人形を取り出した。
うぅ……丑の刻参りとかで使うアレだ……。
「おい、髪5本 寄越せ」
「え、さっき勝手に抜いたじゃないですかぁ……」
「んなもんどっか行ったし。 ほら、早くしろ」
「鬼畜っ……」
さっきの痛みを思い出し、体が震える。
痛みは一瞬、痛みは一瞬……でも、やっぱり痛いのはヤだ……。
「八峠さん、わざわざ抜く必要はないでしょう? 少し切ればいいだけなんですから」
「……えっ、切ればいいんですかっ!?」
「えぇ、十分ですよ」
……マジですか。
私が経験したあの痛みとはいったい……。
ていうか、八峠さんってば肩を震わせて笑ってる。
この反応は絶対、知ってたなっ。
知ってて抜きやがったなこの野郎っ。
「八峠さんの馬鹿っ。 ハゲたら責任取ってくださいよっ!?」
「お前はいちいち大袈裟だなぁ。 ちょっとした遊びだろ?」
「遊びで人の髪を抜かないでくださいっ!! ほんっとに痛かったんですからねっ!?」
「悪かったよ、もうしない。 ハク、コイツの髪を切ってやれ。 俺が切ると、また怒られるからな」
くつくつと笑う八峠さんと、苦笑気味に笑う薄暮さん。
オサキは『楽しいねぇ』と笑って、興味津々に辺りを窺っている。
……ほんとに、もう……。
「なんで私ばっかり……」
「『カゲロウの血』は、そういうもんだ」
「……いや、今この状況でカゲロウは関係ないし。八峠さんが楽しんでるだけじゃないですか」
「ハハハ、そうかもしれんな」
『かも』じゃなくて『絶対』だし。
ハァ……ほんと、疲れる……。
「杏さん、切っても大丈夫ですか?」
「あ、はい……よろしくお願いします」
「使うのは少量ですが、なるべく目立たない位置を切りますね」
……薄暮さんだけがマトモだ。
そう思いながら、私は何度目かもわからない ため息をついた。