「幽霊なんて怖くないッ!!」
──その後、薄暮さんが小刀で切った私の髪を、八峠さんが藁人形に仕込む。
私は『札を離さず持っとけ』と指示を受け、ベッドの上から様子を窺っていた。
藁人形は1体だけ外に出され、他の4体は髪の毛を仕込まれた状態で再びバッグの中へ。
薄暮さんはそのバッグを持ってドアの前に立ち、八峠さんは私の真向かいの壁に寄りかかっている。
オサキは私の横にちょこんと座って『“ぼでぃーがーど”』と どこか誇らしげだ。
「おい、双葉 杏」
「あ、はいっ」
「俺とハクは一時 姿を消す。 今から幽霊がこの部屋に入り込んでくると思うが、焦らず騒がず、平常心を保て」
「えっ……ちょ、どこに行くんですかっ……!!」
「まだわからん。 だが近くには居るさ、ハクがな」
八峠さんの言葉に応え、薄暮さんがニコッと笑う。
……薄暮さんがどこかに居てくれるのなら、そりゃあ安心は出来る。
でも、八峠さんはいったいどこに行ってしまうんですか……。
「もしかしたら本体が来るかもしれんが、まぁ、その時はその時だ」
「……本体?」
「カゲロウだよ。 奴が直接命を狙いに来るかもしれん」
「えぇっ!? なんでですかっ!!」
「カゲロウは俺たちに呪いの矛先を向けてるが、俺たちはずっとそれを回避してきてるだろう?
つまり、切羽詰まってるってことだ。 穴に入る奴が必要なのに、まだ入っていない。 そうすると、いつ自分にまた矛先が向くかわからんだろう?
カゲロウ本人が来てお前に呪いを埋め込む。 それが手っ取り早い方法だ」
「うぅ……」
「簡単に言うぞ、お前は囮だ。 奴が姿を現せたら、俺が奴を殺す」
そう言った八峠さんは、今までに見たことがないほど冷たい目をしていた。