「幽霊なんて怖くないッ!!」
「オサキ、あまり八峠さんをからかっちゃいけないよ?」
『すみません、ついつい楽しくて』
「気持ちはわかるけど、敬意を払ってね。 それと、僕が出たあとは杏さんのことを隠してあげて」
『えぇ、わかりました』
微笑みながらオサキの頭を撫でた薄暮さんは、すぐに私を見た。
「大丈夫、必ず守ります」
「……はい」
「ではまたあとで」
……薄暮さんはあっという間に姿を消し、残されたのは私とオサキ、そして藁人形だけとなった。
『杏チャンは、僕だけでは不安かな?』
オサキの言葉に首を横に振る。
……彼がこの部屋に現れなかったら、私は一人でここに残されていたと思う。
どこかには薄暮さんが控えているとしても、それでもこの部屋に残るのは私一人。
オサキがそばに居てくれるだけでも、今の私にはありがたい。
「……不安がないって言ったら嘘だけど、オサキが居てくれると安心出来るよ」
『そうか、それはよかった。 しかし、今お札の効力が切れたら厄介だねぇ。
一縷さんがそばに居るとしても、間に合わなかったら杏チャン死んじゃうよ?』
「……そうなったら、『仕方なかった』って思うだけだよ」
今この瞬間にお札の効力が切れても、それは『仕方のないこと』だ。
──カゲロウをおびき出せるのなら、コイツは死んでもいい。
八峠さんはきっとそう思ってる。
「……『カゲロウの血』は、そういう運命なんだよ」
秋さんは常々そう言っていたし、八峠さんもそう。
そして、私自身もそう思う。
『カゲロウの血』は狙われるのが当たり前。
そういうものなのだ。