「幽霊なんて怖くないッ!!」


「オサキ、あまり八峠さんをからかっちゃいけないよ?」

『すみません、ついつい楽しくて』

「気持ちはわかるけど、敬意を払ってね。 それと、僕が出たあとは杏さんのことを隠してあげて」


『えぇ、わかりました』



微笑みながらオサキの頭を撫でた薄暮さんは、すぐに私を見た。




「大丈夫、必ず守ります」

「……はい」

「ではまたあとで」




……薄暮さんはあっという間に姿を消し、残されたのは私とオサキ、そして藁人形だけとなった。







『杏チャンは、僕だけでは不安かな?』




オサキの言葉に首を横に振る。

……彼がこの部屋に現れなかったら、私は一人でここに残されていたと思う。


どこかには薄暮さんが控えているとしても、それでもこの部屋に残るのは私一人。

オサキがそばに居てくれるだけでも、今の私にはありがたい。




「……不安がないって言ったら嘘だけど、オサキが居てくれると安心出来るよ」

『そうか、それはよかった。 しかし、今お札の効力が切れたら厄介だねぇ。
一縷さんがそばに居るとしても、間に合わなかったら杏チャン死んじゃうよ?』

「……そうなったら、『仕方なかった』って思うだけだよ」




今この瞬間にお札の効力が切れても、それは『仕方のないこと』だ。


──カゲロウをおびき出せるのなら、コイツは死んでもいい。

八峠さんはきっとそう思ってる。




「……『カゲロウの血』は、そういう運命なんだよ」




秋さんは常々そう言っていたし、八峠さんもそう。

そして、私自身もそう思う。


『カゲロウの血』は狙われるのが当たり前。

そういうものなのだ。


< 56 / 285 >

この作品をシェア

pagetop