「幽霊なんて怖くないッ!!」
1つや2つではなく、10体以上が一気に集まってきた。
藁人形の周りを飛び回り、様子を窺っているらしい。
『お札の光りが僕の結界の中に入って見えなくなったから、一気に来たんだろうね。
彼らにはお札の効力が切れた。 そう見えているだろうよ』
「……」
『あぁ、喋っても大丈夫。 彼らには何も聞こえていないから』
ジーッと塊を見つめながらも、オサキの声は穏やかだ。
だから多分、彼が言うように……私たちの姿は完全に隠れているし、声も聞こえていない。
「……このままここに居て、大丈夫かな……?」
『八峠クンはここに居るよう言ったから、ここに居た方がいいかもしれないね』
「……うん」
『彼らには藁人形が杏チャンの姿に見えてるはずだよ。 そうじゃなきゃ、身代わりにはならないからね』
私の目に映る藁人形は、藁人形のまま地面にある。
けれど幽霊たちには それが『私』に見えているらしい。
……藁人形の『私』は、いったいどんな表情をしてるんだろう……。
無表情だろうか?
それとも怯えた顔? 不安そうな顔?
わからない。
わからないけれど、でも……幽霊は無抵抗な『私』を殺す。
それだけは、確かなことだ。
『彼らは、1つになるつもりだね』
オサキが小さく言う。
その声を聞きながら、私は黒い塊が集まり始めたのを見ていた。
10体以上あった塊が、5体、4体へと数を減らしていく。
それに比例するように塊は大きくなり、最後の2つが1つになった時……それは大人の男性ほどの大きさとなった。
『……マズいな』
「え……?」
『コレは、カゲロウ本体かもしれないよ』
「……っ……」
うねうねと動く黒い塊が、次第に形を留めていく。
……そしてその形は、人間のモノになりつつあった。