「幽霊なんて怖くないッ!!」
「やぁ、オサキギツネ。300年ぶりだね」
『……カゲロウ……』
──人間の形をした塊が、完全に人の姿となった。
その男性は八峠さんや薄暮さんよりも少し若いようで、多分、秋さんと同じくらいの年齢だと思う。
腰ほどまである黒髪を後ろで緩く結んでいて、薄暮さんと同じように紺色のスーツを身に纏っていた。
彼は穏やかな口調でオサキを呼び、そして……私を見て微笑んだ。
藁人形ではなく、彼は私自身を見ている。
「霊たちには見えないけれど、俺からは丸見えだ。 惜しいね、あと500年ほど経てば完璧だったよ」
『500年か、それは困ったな。 僕は長生きな方ではあるけれど、永遠の命は持っていない。 500年後じゃヨボヨボの爺さんだ』
「不老不死の水を飲むかい? 俺の命を救ってくれたお前になら、水の在処を教えるよ?」
『一縷さんがそう言ったのなら僕は迷わず水を飲むだろうね。
だが、あんたの言葉には絶対に乗らないよ』
「そうか、残念だ」
言葉の通り、彼は本当に残念そうな顔をしていた。
……カゲロウからすれば、オサキは命の恩人ということになる。
薄暮さんがオサキを助けなければ、カゲロウは死んでいた。
オサキが居たからこそ、彼は今 ここに居る……──。