「幽霊なんて怖くないッ!!」


「さてと、じゃあ次の話題に移ろう。
双葉 杏さん、俺はキミを殺しに来ました」

「……っ……」

「でもね、今はちょっと時間がないから諦めようと思うんだ」




柔らかな笑みのまま、カゲロウは言葉を続けていく。




「オサキとの会話をついつい楽しんでしまったよ。 なにせ300年ぶりだったからね。
困ったね、あと5秒もしたら薄暮の登場だ」




オサキと話していた時に残念そうな顔をしていた彼は、今は本当に困ったような顔をしていた。

……この人は本当に人を呪う仕事をしていたの? と、そう思ってしまうくらいに彼は穏やかで、誠実そうな人だった。


そのカゲロウの首もとに、後ろから小刀を突きつける男性──薄暮さん。

薄暮さんもまた、いつもと同じように穏やかな声だった。




「ようやく会えたね、カゲロウ」

「あぁ、そうだな。 涙を流して抱き合おうか?」

「遠慮しておくよ。 だってその体は、お前本体じゃないだろう?」




──本体じゃない。


薄暮さんがそう言った途端、カゲロウは……ううん、カゲロウの形をしていたソレは、ニヤリと笑って弾け飛んだ。


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