「幽霊なんて怖くないッ!!」
2 それぞれの思い
出会い
【それぞれの思い】
──それから数日が経った。
(……八峠さん、今日もまた来るのかな……)
学校からの帰り道で、ハァ……と深くため息をつく。
あのあと、カゲロウは私たちの前には現れていない。
他の『カゲロウの血』のところに現れたという話も聞いていないし、緊迫した様子も無い。
いつまた狙われるかはわからないけれど、少なくとも今は、ごくごく普通の生活を送ることが出来ている。
……学校に行って帰ってくるまでは、だ。
『杏チャンは、八峠クンのことが嫌いかい?』
歩道を進んでいく私の横にピッタリとついて歩くオサキが、私の顔を見上げる。
彼はあの日からずっと私のそばに居て、必要に応じて結界を張ってくれていた。
オサキの結界とお札の守り。 それを併用することで、今まで以上に幽霊との接触を防ぐことが出来る。
だから私は、ごくごく普通の高校生として日常を送ることが出来ていた。
……さっきも言ったように、学校に行って帰ってくるまでは、だけどね。
「……普段の八峠さんは、どちらかといえば嫌いだよ」
『じゃあこの時間の彼は?』
「嫌いっていうか、怖い」
『アハハ。 なるほど、確かに怖いねぇ』
「もぉ……他人事(ひとごと)だと思って……」
『ゴメンゴメン。 でも、危なくなったらちゃんと助けるよ』
ピョン、と軽くジャンプして私の肩に乗ったオサキは、真っ直ぐに前を見つめた。
……オサキの見つめる先に、黒い服の男が立っている。
「よう、双葉 杏。 今日も始めるぞ?」
ニヤリと笑う男──八峠さんは、右手の指をパチンと鳴らした。
その直後に、周囲の空気が重くなる。
「殺(や)らなければ殺られる。 だから殺れ」
八峠さんの背後から幾つもの黒い塊が飛び出してきた。
……始まった。
これは、生死をかけた戦いだ。