「幽霊なんて怖くないッ!!」
………
……
…
緑地公園のトイレの陰に隠れ、荒い呼吸を整える。
『相手は幽霊だから、丸見えだと思うよ?』
「わかってるけど隠れちゃうものなのっ」
相手は幽霊だから、こんなところに隠れても意味がない。
十分にわかってる。 十二分にわかってる。
だけど、それでも隠れてしまうのが人間の心理というものだ。
「……ねぇオサキ、どうやったら幽霊に勝てるのかな……?」
逃げてばかりじゃいつか死ぬ。
人に頼ってばかりじゃダメ。
それがわかっているのに、どうすることも出来ない自分に腹が立つ。
「……カゲロウには勝てないとしても、幽霊相手なら……幽霊たちに勝てるなら、もう悩んだり逃げたりする必要はないのに……」
『彼らを飛ばしたり除霊したりするのは、杏チャンが思ってるよりもずっとずっと簡単なことだよ。
コツさえ掴めばきっと今すぐにでも出来るよ』
「……コツが掴めないから悩んでるんだよー……」
『それもそうか。 うーん、こればっかりは自分で掴むしかないからねぇ……。 と、そんな話をしてるうちに、彼らに見つかったよ』
「……っ……」
黒い塊が人の形へと変化し、ノロノロとこちらに向かってきた。
まるでゾンビ映画に出てくるゾンビみたいに あちこち血まみれだし、内臓らしきモノも飛び出している……。
うぅ……気持ち悪い……。
「無理だよ……ほんっと、無理……」
『仕方ない、僕が倒してあげるよ。 杏チャンが死んじゃったら、僕が困るからね』
軽いステップで幽霊たちの元へと行くオサキ。
彼らの動きを窺ったあと、オサキは幽霊に飛びかかった。
普段は見せない鋭い爪で幽霊を引っかき、そのあとの噛みつき攻撃で相手を仕留める。
オサキは人間の言葉を話せる妖怪だけど、その時はまさに『獣』だ。
『終わったよ』
私を見て尻尾を振るオサキは、いつものように行儀正しくちょこんと座っていた。