「幽霊なんて怖くないッ!!」
少し前までは『八峠』という名前しか知らなかったけど、今は目の前に彼が居る。
それに、ここ最近は不本意ながら毎日会っている。
……なのに私は八峠さんのことを何も知らないんだ。
「八峠さんは私のことをフルネームで呼びますけど、私は八峠さんの名前を知りません。
それって、なんかフェアじゃない気がします」
「俺とお前は元々フェアじゃねぇだろ。 俺の方が格上だ」
「……そうかもしれませんけど、名前くらいは知りたいですよ。
普段どういう生活をしてるかも知りたいし、何が好きで何が嫌いなのかとか、薄暮さんとどうやって知り合ったのかとか、色々知りたいんですっ」
「どこが『名前くらいは』だよ、知りたいことが山積みじゃねぇか」
足を組みながら くつくつと笑う八峠さんは、ゆっくりと空を見上げてから言った。
「まぁ聞かれりゃ答えるけど、俺のことを知っても面白くもなんともねぇよ?」
「そんなことないですよっ。 薄暮さんとどこで知り合ったのかとか、興味津々ですもんっ」
「名前じゃなくてそっちが先かよ。 ほんっとにお前は、面白い奴だなぁ」
ポンポン、と私の頭を叩いた八峠さんは、そのあとに優しく髪を撫でていた。
彼をチラリと見ると、優しい笑顔が目に映る。
さっきまでのニヤリと笑った顔とはまるで違っていて、別人のよう……。
「俺とハクが知り合ったのは、もう10年近く前になるな。 今のお前と同じくらいの時だったよ」
そう言ったあと、彼はまた静かに空を見上げた。