「幽霊なんて怖くないッ!!」
──黒い塊が、すぐに襲いかかってくる。
それを華麗に避けた八峠さんは、塊に右ストレートをたたき込む。
……おぞましい声を上げながら散っていく幽霊たち。
そんな幽霊たちを見る八峠さんは、とにかく楽しそうだった。
「俺を殺そうだなんて500年はえーよ」
左からもパンチが繰り出され、塊は最初の大きさの半分以下にまでに減った。
そしてその塊に、八峠さんの蹴りが炸裂する。
塊はそのまま数メートル先まで飛んでいき、電信柱にぶつかった瞬間 姿を消した。
「凄い……」
薄暮さんとは全く違ったタイプだけど、でも凄い。 ていうか、強い。
軽いステップから繰り出される右ストレートや左からのパンチ、そしてキック。
全てがかなり速くて、そして重たそうだった。
……幽霊を飛ばすこと自体 かなり力を使うはずなのに、八峠さんは普段と変わらない。
疲れは見えないし、表情にも余裕がある。
凄いな……この人、本当に凄い……。
「周囲に危険なのは無し、と。 中入って少し休むか」
「あ、はいっ!!」
「あーでも、しばらく帰ってなかったからホコリっぽいと思う。 それは先に謝っとく」
タバコの煙をフゥーッと吐き出したあと、八峠さんは玄関の鍵を開けた。
「……あんまり家に帰らないんですか?」
「最近はずっと双子んとこの近くのアパートに居たから、ここに帰る必要が無かったんだよ」
「あー、なるほど」
「……だが意外と綺麗だな。 つーか、掃除されたばっかりって感じだな。
アレか、泥棒があまりの汚さに呆れて掃除しといてくれたのか」
……いや、それは絶対無いと思う。
「多分 薄暮さんですよ。 定期的に来て掃除してくれてるんだと思います」
「ふーん。んなこと一度も聞いたこともねぇけどな」
興味無さそうに言いながら靴を脱ぎ、廊下を進んでいく八峠さん。
私も遅れないようにと彼のあとを追い、廊下を進んでいく。