「幽霊なんて怖くないッ!!」


薄暮さんに導かれるまま部屋を出て、ゆっくりと玄関に向かう。

靴を履き替えて外に出て、まばたき をした瞬間……──。




「えっ……!?」




──……そこは八峠さんの家の敷地内ではなく、海だった。

太陽がほとんど沈んだ海は だんだんと夜の色へと変わっていき、外灯のない砂浜には私たち以外は誰も居なかった。




「な、なんでっ……だって、今っ……!!」

「『今の今まで八峠さんの家に居たのに』?」

「そ、そうですそうですっ!! あの場所から海って、結構かかるじゃないですかっ……!!」




自分の身に何が起きたのか全くわからない。 まさにパニック状態だ。

まばたきを1回する間に、私は八峠さんの家から海にまで来ていた。


薄暮さんはいつも突然現れるし突然姿を消すから、そういう面では慣れていたけれど。

でも、まさか自分がそんな風に動いてしまうなんて……。




「テレポーテーション──瞬間移動をご存じですか?」

「は、はい……漫画とかで、よく見ます……」

「えぇ、その瞬間移動は実在するんですよ。 ほとんどは自分の意思に関係なく 突然移動してしまうんですが……僕はそれを操ることが出来るんです」


「じゃ、じゃああの……いつも薄暮さんが突然現れるのって……」

「あぁアレはコレとはまた違ったものですよ。 同じように見えるかもしれませんけどね」




……頭の中がグチャグチャだ。

コレは瞬間移動で、アレはまた別のもの……見た目は似てるけど、でも違う……。




「……薄暮さんって、超能力者さんデスカ……?」

「いえ、ただの死なない人間です」




ただの死なない人間。 という言葉自体 違和感の塊のような気がする……。




「……よくわからないけど、薄暮さんは凄い人だと思います……」




そう言った私を見る薄暮さんは、ニコニコと笑っているだけだった。


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