「幽霊なんて怖くないッ!!」
……暁さんが、薄暮さんを……?
「暁がカゲロウを突き飛ばし、斬られそうになった僕を救ってくれたんです。
でも、暁はすぐにカゲロウに斬られて……彼女は服を真っ赤に染めた状態で、崖の下へ落ちていきました」
「……っ……」
「カゲロウとの距離は彼女のおかげで随分と開きました。 だから僕は逃げたんです。
……本当はあの時にカゲロウを殺してやりたかったけれど、僕は凪と時雨を守らなくてはいけない。絶対に二人を死なせてはいけない。
そう思ったから、僕はカゲロウから逃げました」
……辺りはすっかり暗いから、薄暮さんの表情はわからない。
でも、その声は徐々に小さくなってきた。
「……3人で村へと逃げ帰ったけれど、結局僕は凪と時雨を守ることは出来なかった。
凪は不知火と同じように首を斬られ、時雨は心臓を一突きにされて殺された。
……僕はみんなを見捨てたんだ。 暁のことも、不知火のことも、凪と時雨のことも……全部を見捨てたんだよ」
雲の切れ間から月が顔を出し、柔らかな光が私たちを照らす。
……薄暮さんは、小さな笑みを浮かべながら私を見ていた。
寂しそうに、悲しそうに、そして、辛そうに。
何も出来ずに逃げてしまった自分のことを、きっとずっと責めてきたんだと思う。
300年前の戦いでも、結局 仲間の無念を晴らすことは出来なかった。
……ずっと一人で、色々なことを抱えてきたんだ。
「……仲間の敵は必ず討つよ。 そして、カゲロウに命を奪われた多くの人のためにも、立ち止まるわけにはいかないんだ」