強がりウサギの不器用な恋
「なぁ、温泉って……風呂入る以外に何があんの?」
後ろの座席から少し身を乗り出して、海藤さんがボソリとそう問いかける。
私に訊いたのか社長なのかわからないから、私はだんまりを決め込んでいた。
「えーっと……近くに何かあったよな? 宮田。」
そうやって何でもかんでも私に振れば解決すると思ってる運転席の男を殴ってやりたい。
「…はい。山の景色が楽しめる場所が。ロープウェイがあるそうです。」
「そうそう、ロープウェイ。みんなで乗ろうぜ。」
私が社長のはしゃぎっぷりに少し呆れると、海藤さんもクスっと笑った。
しかし……社長のこんな仕事以外の顔を見るのは、すごく久しぶりだ。
どれくらいぶりだろう?
もしかしたら、社長がまだ大学在学中の頃に見たのが最後だったかもしれない。