ワタシ的、悪戯と代償
先生の顔に手を伸ばし、縁のない眼鏡を取る。こちらを見たままの先生は、抵抗しなかった。
綺麗な顔が現れて、私は思わず笑う。この眼鏡を取った素顔はなかなか見られるものではないのだ。
「何も見えない。」
それは嘘だ。少なくとも私はこの距離にいるのだから、少しは見えているだろう。
「せんせ?」
「何だい。」
「私はそんな説が無くったって、先生に呼んでもらえたら、すぐに飛んで行くわ。」
そう言って、その頬に口づけをする。頬は少し髭が伸びていて、ざらざらとした。
先生は表情を変えない。一度だけため息をつくと、私から眼鏡を奪ってかけ直す。
冷静に見えるその態度だが、よく見てみると目の縁が少し赤いことがわかった。
……わかりにくいけど、照れているんだ。
その事実に、とても嬉しくなり、私の頬は緩む。
「じゃあ私、帰りますね。」
「あぁ、」
椅子から勢いよく立ち上がり、デスクの上に置いてあったコートを羽織る。
そして買ったばかりの鞄を右肩にかけると、私は先生に背を向け、扉の方へと歩き出す。
振り返り、また来ます、と声をかけようとした時だった。
「ちょっと待ってくれ。」