【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
ホッと胸を撫で下ろし、泣き出しそうな優しい笑顔で私を見る。
なんて優しく、甘く、自分の名前を呼ぶのだろう。
涙が溢れそうになるのを必死で歯を食い縛り耐えた。
デイビットさんが甘く笑った瞬間、ざわざわと、心は震えた。
期待と後悔と、そして泣きそうになる恋情。
「し、失礼します!」
駄目だ、駄目だと思った。この人には、迷惑をかけられないと。一人で、一人で生きていかなければ。
この人に、嫌な顔をされたら、一生立ち直れなくなる。
「美麗!」
着物でもないのについついワンピースのすそを掴み上げながら、今まで絶対に駄目だと母親から注意されていた、大股で走る行為を平然としていた。
「この人とお見合いするんです! もう、もう、遅いんです! ごめんなさい!」
幹太さんの腕を掴み、個室へ足早に戻る。
もう期待はしない。一人で決断し、間違えてもいいから歩き出そう。
「失礼」
そう思って逃げた私を、デイビットさんは簡単に走って捕まえ、幹太さんから引きはがすと抱きかかえた。
「逃げるって事は、私の賭けの勝ちかな?」
「賭け?」
よっと、お姫様抱っこをされると、デイビットさんは困惑している私を愛しげに見つめ、涙がたまった睫毛に唇を寄せた。