【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
「妊娠は安定期までは早々言いふらすものじゃありませんよって。麗子さん、私にわざわざ言いに来たのよ。電話でも良い用件だったのに家まで来て」
本当に可笑しそうに佐和子さんは笑うが、私は耳まで真っ赤になっていたと思う。
そんな、母らしくない行動になんだか私まで恥ずかしい。
「でも良かったわ。引っ込み思案だった貴方がそんなに変わるのね。おめでとう。楽しみだわ」
「ありがとうございます。私も今、幸せです」
まだ笑っているけど、佐和子さんは御つりを受け取ると優しく目尻を細めて私を見る。
「もう舞踊に未練はない?」
「ありません」
きっぱりそう言うと、佐和子さんは一回深く頷く。
「では、私は待つわ。弟子は取らない主義だけど美一くんの娘なら私、――待つわ」
その言葉に目を見開く。
いくら、私が幹太さんに鈍感だと言われようと流石にその言葉の裏の意味は分かる。
「貴方ならきっと出来るわ。美一くんみたいに繊細な文字を書くのだから」
「あらあら、困ります。将来有望のうちのスタッフに」
暖簾を上げて小百合さんが現れると、二人は冗談交じりに話を始めた。