【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
「で、本題です」
デイビーは、私が受け取った婚姻届の紙を持つ手が震えているのを見て、そっと手を添えてくれた。
隣で、吸いこまれそうな紺碧の瞳で私を見ながら。
「昨日、佐和子さんにスカウトされましたよね?」
「何で知ってるんですか?」
「佐和子さんには、日本文化を学ぶ交流イベントの手伝いをして頂いていますし、そのイベントのパンフレットの飾り文字を書いて貰ったり、と仕事で会うのが多くて」
相談しようかとぐちゃぐちゃになっていた悩みの種を、彼は既に知っていたんだ。
「その、私、今の仕事も中途半端にしたくないけど、出来たら佐和子さんの傍で勉強したいなって思ってて、でも赤ちゃん居るしどうしようかって」
上手く言葉に出来なくて、しどろもどろになって、両手に汗が噴き出て婚姻届に指が張り付いてしまう。
私と彼の長い影が、窓に映り、そこだけ外の風景を消してしまう。
「私、繊細だって、表現力がないって、控え目だって言われる自分の字があまり好きじゃないから才能が無くても練習だけでも通いたい。もし、身の程知らずじゃなきゃ」
「良いと思います」