【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

お鍋を開けると、おだしの中に交互に並べられた白菜と豚肉が。
なんとか匂いで悪阻は起きなかったから食べれそうだ。

「ポン酢であっさり食べたら、美麗さんにも食べやすいからと」
「ありがとうございます」

悪阻で食欲がなかなか戻らなかったので嬉しい。

「お姉ちゃんの荷物、取りに行くついでに幹太さんの4月の季節メニューの試食させてもらっちゃった」

上機嫌な美鈴に、母が複雑そうな顔をする。
気づかれないように、反物を両手に抱いてそそくさと席を立ちながら。

母も美鈴の気持ちに気付いている。
気づいているけど、見ないふりするんだ。
幹太さんはあの家の跡取りだけど、職人だから表の仕事は全部小百合さんみたいに奥さんがするもんね。

母の跡を継ぐと決めた美鈴には、その選択を選べない。
それが分かっていても、美鈴は自分の居場所が欲しくて跡取りに立候補したのだとしたら。

上手く歯車が回ってくれない。


ご飯は美味しくて、久しぶりに全部完食したのに、なんだか満たされない思いが胸を締め付ける。
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