【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
「餡作ってんだからすぐ来れるか」
作務衣の紺色の甚平に赤い腰巻きエプロンを着た、――低い声で威圧的に喋るこの人。
「今日から鹿取さん宅のお嬢さんが勤務すると言ってたろ」
「そんなん知るか。俺は忙しいんや」
ギロリと睨まれて、2、3歩後ずさる。
はっきりくっきりした眉毛に、いつも不機嫌そうに眉を寄せてて睨んできて、――無口なのに喋る言葉は吐き捨てるみたいに乱暴で。
私はこの人が苦手だった。
苦手というか怖い。
小さな頃、私がお客様用の和菓子を取りに来た日に、店番をしていた人だ。
『春月を十ぐらい下さいな』
『十ぐらい? はっきり数決めろや。何個?』
『か、母さんが十ぐらいあればいいからと……』
小学生だった私を、学ラン着た幹太さんは見下ろして冷たく言った。
『十ぐらいやなくて、十個下さいとはっきり言えや。紛らわしいやろ』
『ご……ごめんなさい』
俯く私に深くため息を吐く。
こんな御使いですら私は人様に迷惑かけるんだと思ったら怖くなった。