【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
春屋堂の和菓子が並べられた列の真ん中に、桜の花びらのような練り菓子がある。
春はこの和菓子の人気が高く、お寺さんや料亭、お茶会になど纏まった注文があるらしい。
咲き乱れ舞う桜の華麗な姿を桜すだれになぞり、桜葉入の道明寺羹にてあっさりとしたこし餡を包みこんだ和菓子。
ひな菓子や春の御祝いの席で人気が高い、春月屋の春の名物の一つでもあるのが頷ける、乱れ舞う桜を閉じ込めた和菓子。
そんなお菓子を眺めつつ、休憩時間になったので休憩室のパートさんたちと交代することになった。
シフトは、正社員とパートさんの組み合わせで組まれることになっているらしいが、パート二人さんは、日高さんより年配で此処で働いているのも長く、私の教育係も拒否したらしいので、私が慣れるまで正社員、パート同士でシフトが組まれている。
今日は午前中だけ出勤が無理だったらしく、珍しく半々で出勤になった。
「生活が掛っている正社員と違って、趣味程度にシフトに入るパートはお気楽でいいわよね」
サバサバしている日高さんが珍しく毒づくのだから、なんとなく仲が悪いのは分かった。
私の家でも、年功序列以外に母のお気に入りだの目をかけられているだのとギスギスした関係が出来る時もあったから。
――女だけの職場の宿命なのかもしれない。
「ええー!本当に? 嫌だわ。最近の若い人って」
休憩室を開けようとした手を止める。
日高さんは調理場の幹太さんと喧嘩のような会話を始めていて此方には気づいていないようだった。