【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

――あんなに私が泣いていたのに、美鈴は夜遅くまで友達と遊んで帰ってきたから知らないんだ。


私より自由に生きてきて、何で今さら柵(しがらみ)に入ってきたのか分からないけど。

今までの美鈴を知っているお弟子さんたちにはいきなり手のひらを返されて面白くはないと思う。

あの世界は経験と経歴が大事なだ。私だって15年はやっていたから、扇子を隠された時、隠した方が顰蹙を少し買っていた。

美鈴のようにぽっと出で、なのに母が気にいれば面白くない人だらけだ。先輩弟子さんたちは尚の事。

「そっか。お姉ちゃんでさえ経験済みなんだね。ちょっとほっとした。頑張ろうっと」

稽古に積極的で、私みたいに大泣きしないで前向きで。

これ以上劣等感で息が吸えなくなるような居心地の悪い雰囲気を作らないで。


「あ、お姉ちゃん、今日の朝、可愛い箱持ってたよね」

私が振り返らないのに、美鈴は気にせず話しだす。
私は今、――話したくなんてないのに。
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