【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

 空っぽな自分を惨めったらしく母親のせいにしても、本当に自分には何もないのだから仕方ない。この引っ込み思案でおっとりした性格なのは、亡き父親似のせいだ。

「また、誰かのせいにしてしまう」

 こんな弱い自分が嫌いだとしくしく泣いていたが、もうお母さんの言った事は覆らないし、誰も逆らえない。

 値段なんていくらかも分からない、身分不相応な藍染めの着物に、ひらひらと桜が触れては落ちていく。懐から扇を取り出し縁側に投げ捨てると、着物の裾を掴んで泣いた。

 応接間のすぐ脇にある桜の木の前で声を殺して泣く自分はなんとみじめな事だろうか。
耳を通り抜けるのは、舞踊の琴や三味線、絹擦れの音。
此処に生まれてきたかったわけじゃない。
ただ、自分の事は自分で決めて、自分で失敗して、自分で歩いてみたかった。
結婚すれば、三歩後ろを歩く良妻賢母を求められ、嫡男を産まなければ石女と馬鹿される。

この古臭い、小さな籠の中で生きるのは、退屈でずっと怖かった。
 もう飼い慣らされている今、飛び出したとしても一人では生きられない。

籠の中、美しく成長した羽は飛ぶことも知らない。

「綺麗でも……ないけどね」
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