【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
結局終バスで帰り、落ちて来そうな満月を見ながらフラフラフラフラ家を目指す。
家からは微かに琴の音がする。お弟子さんか母か、まだ起きているなんて珍しい。
昨日の夜は、曇っていて月が隠れてはまた顔を出す、そんな淡い時間だった。
一瞬の瞬きをした間の出来事のような、暖かいぬるま湯に抱き締められているような、春の夜の出来事だった。
今でも月の光がうっすら入り込むと、優しくキスしてくれたあの感触を思い出す。
彼の首筋から香る、柑橘系の爽やかな香水の匂いも思い出すと胸が締め付けられる。
はやく忘れなきゃ。あの感触と匂いと優しい笑顔を。
連絡先もワンピースももう、無いのだから。
ジワリと広がる涙を払いのけながら歩く。
一夜だけじゃなく、そう夢見てしまいそうで自分が惨めになる。
「お姉ちゃん」