難攻不落な彼女
放課後、帰りの支度をしていると、クラスメイトが声をかけてきた。


「りょーすけー。カラオケ行こうよ!」


「あー、ごめん。今日は無理だわ。」


「今日は、じゃなくて、今日もでしょ?何か最近付き合い悪くない?
 
 1年の時は、たまには行ったのに、2年になってから全然じゃん!」


そう言われて、苦笑する涼介。


「うーん・・・ごめん。でも、ちょっと無理なんだ〜
 
 バイバーイ。」

涼介は逃げるように教室を出た。


涼介が放課後遊ばなくなったのは、ちょっとした家庭事情の変化だった。

涼介の家には母親がいない。父親は仕事が忙しいので、家事は4人の兄弟の分担性だった。

だが、少し問題があった。次男が破滅的に料理が出来ないのだ。料理は長男と涼介が得意としていたのだが、その長男が今年から大学4年になり、研究室に配属され、忙しくなってしまったのだ。



また、次男よりは戦力になる四男は、今年、高校受験だ。自分も高校受験のときには、二人の兄に優遇してもらった経験から、四男にあまり負担をかけるつもりはない。


そういう理由から、最近、晩ご飯担当はもっぱら涼介の担当だった。

他人に話せば、同情されそうな環境かもしれないが、別に涼介に不満はない。


料理は嫌いではないし、物心ついた頃にはもう母親がいなかった涼介にとって、家事をすることは当たり前だ。
長男が高校の時、自分と四男はまだ、小学生だった。今の自分よりずっと苦労したであろう。


それでも、そのことについて、兄は一度も不満をもらしたことはない。


決して優しいとは言いがたい長男だが、そのことから考えるに、よく出来た兄なのだろう。

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