難攻不落な彼女
「「「いただきま〜す」」」


食事は、普段ならあり得ない、大きな号令ととも始まった。


「どうですか?」



おそるおそる聞く咲良に



口いっぱいに唐揚げを頬張った陽介が答え、浩介が無言で頷く。



「本当に、咲良ちゃんは、涼介の彼女じゃないの?」


やっぱり納得してなかった浩介がもう一度尋ねた。


「はい。本当にただの友達です!」


『ただの友達』という言葉が胸にささる涼介。

「え〜、じゃあ、俺の彼女になってよ!
 

 それで、毎日おいしいご飯作ってよ!」


無邪気に言う陽介にイライラする涼介。


「涼介君、美味しくなかった?」


心配そうに聞く咲良の声で我に返った涼介は慌てて弁解する。


「ごめん、ちょっと考え事してただけ。
 
 もの凄い、美味いよ!!」


咲良は、その涼介の言葉を聞いて、ホッとしたように笑って食べ始めた。


正面に座っている浩介と目が合う。


『ばか』声は出ていないが、口がそう動いた。


勘のいい長男に、自分の心の内など読まれていそう、気まずくなった涼介は、それから無心で食事を開始した。



大量の唐揚げがあっという間になくなっていく。



流石に、2kgがなくなる事は無かったが、それでも3分の1ほどにまで減っていた。


「もう、食べれない!でも、食べたい!!」


お腹をさすりながら言う陽介に、咲良が笑いながら言う。



「2kg全部揚げてあるから、明日までなら普通に食べられるよ」


陽介は、流石末っ子と言うべきか、兄弟の中で一番人懐っこく、すっかり咲良と仲良くなっていた。


「ねぇねぇ咲良ちゃん。」


「何?」


「もし、俺がさぁ、県大会で優勝したら、また唐揚げ作ってよ!」


「おまえっ、何言ってんだよ!」


慌てて止めようとする涼介だが、咲良は気にする事も無く


「いいよ!」




「やったーー!!」


無邪気に笑う陽介。


「本当にいいの?」


もう一度聞く涼介に、咲良は笑顔で答える。


陽介はバスケット部に所属しており、もうすぐ中学最後の大会が始まる。


陽介の学校は、強豪でいつもベスト4までは進む。また、その中でも今年のチームは強いとも言われ、優勝の可能性も低くない。



(絶対優勝しろよ)



口では、咲良に気を使いながら、心の中で弟を応援していた。
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