難攻不落な彼女
咲良を家に送って行く帰り道、涼介は緊張と不安でおかしくなりそうだった。



咲良の家には司がいる。絶対笑顔で出迎えてはくれないだろう。いや、むしろ笑顔で出迎えられたら、それはそれで怖すぎる。


やましい事などない。そう、やましい事など何も無いのに、不安だった。



険しい顔付きの涼介を見て、咲良が心配する。



「大丈夫?お腹痛い?」


お腹も痛い気がする、痛い気がするが、咲良の手料理を食べた後にお腹が痛いなど言えない。



それに、不調は絶対に咲良の手料理のせいではない。



「ちょっと、緊張して・・・」



本当はちょっとどころじゃない。


「そっか、お兄ちゃんと知り合いなんだね。
 
 大丈夫だよ!」



(絶対、大丈夫じゃない)



不安そうな涼介に、咲良はもう一度、力強く言った。



「大丈夫」



あんまり咲良を心配させるのも気が引けるので、何か話題を考える。



「お兄ちゃん、3人いるけど、司君の事は、お兄ちゃんって呼んでるの?」



「家では、名前で呼んでるよ。涼介君は、りょう兄って呼ばれてたよね。

 
 恵介君は、けい兄だったし。


 うちは、彰(あきら)、巧(たくみ)、司(つかさ)だから、そんな風に呼びにくいんだよね。」


「確かに、うちは呼びやすいね。お兄さん達は、みんな漢字一文字なの?」


「うん。お父さんは、篤(あつし)だよ」


「そうなんだ、うちの親父は恭介だよ」


「なんか、揃えるのが好きなのかな?」


「なんか、うち上の兄貴に『介』付けちゃったから、もうそれから流れでつけちゃったらしい。4人も男が生まれると思ってなかったんだとさ!」


「うちもだ!一番上のお兄ちゃんをお父さんとお揃いにしたから、そのまま続けたんだって。

 私が女の子だってわかって『薫』にしようかと思ったらしいんだけど、お母さんが、自分だけ浮くから止めたって言ってた。」


そんな他愛も無い会話をしてると、咲良の家が近づいて来た。


「あそこだよ〜」


咲良の声で現実に引き戻される涼介。


閑静な住宅地の大きな一軒家。


そして、その前には人影が・・・
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