難攻不落な彼女
それは、司だった。


口から心臓が出そうとは、この事だろうか。あり得ない緊張感が涼介を包む。


「お兄ちゃん、ただいま。外で待ってる事無かったのに。」


「咲良、お帰り。」


司が咲良に微笑みかける。


初めて見る、司の笑顔に目がそらせないでいると、司が咲良から涼介に視線を移した。


司と目があう。


涼介は、動けなくなる。


そんな涼介に司が優しく話しかけた。


「恵介の弟だよな?妹が世話になったみたいだな。

 どう言う状況でこうなったか説明してもらってもいいか?」


穏やかに話しかけてくる司のオーラがどす黒く見える。


多分ないと思っていた穏やかバージョンで待っていた司。



だが、その笑顔がむしろ最強に恐ろしい。


「あ、えっと・・・」


涼介が、つまっていると咲良が答えた。


「ちょうど、巧君から連絡が来た時に、涼介君と一緒だったの。

 今日は、家に一人だって言ったら、気を使って夕食に誘ってくれたのよ。」


無邪気に言う咲良。だが、司は涼介から目をそらさない。


「一緒にいた?」


少し刺を帯びた司の言葉に、咲良が続ける。


「クラスメイトなんだから、一緒にいても不思議はないでしょ。」



「クラスメイト?」


初耳だったらしく、司が咲良を見る。


「恵介の弟とクラスメイトなのか?」


「そうだよ。」


やっと司からの視線に逃れられ、涼介の緊張が緩む。



だが、また司は涼介に視線を戻す。



「クラスメイトが一人だからって家に誘うのか?」



司の顔から笑顔がどんどん消えて行く。


「一人でご飯どうしようか考えてる顔が寂しそうに見えたんじゃない。」



咲良の『寂しそう』と言う言葉に司が咲良を見る。



その苦い表情で、司が傷ついたのがわかる。


涼介は、心配になり、咲良の顔を見るが、その顔に動揺はない。


そのとき、涼介は気づいた。


咲良は、司が傷つくとわかって言ったのだと。


全力で涼介を威嚇する司から涼介を守っているのだと。


帰る途中に何度も言われた『大丈夫』は、楽観的に『うちのお兄ちゃんはやさしいから大丈夫』と言っているのではなかったのだと。


「寂しいなら、俺に連絡してこれば良かっただろ?」


「別に、寂しいなんて言ってない。」


苦しげに言う司に、咲良が即答する。

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