難攻不落な彼女

（司君が押されている）


普段、温和な咲良からは考えられない状況に驚くと同時に納得した。


（やっぱ、兄弟だな。）


「いいか、咲良はわかってないが、男が優しさは下心だ。」


口調を強める司。



「涼介君はそんなつもりで誘ったんじゃない。


　今日だって、台所とリビング以外は行ってないし、誘われても無い。


　それに涼介君は、恵介君じゃないよ。」




その言葉を聞いて、司は何も言えない。



司の悪友でもある恵介は、女たらしだ。一人の彼女と長く続かず、簡単に分かれたり、くっついたりする。


二股はかけた事はないようだが、あまり誠実なイメージは無い。



なんとなく恵介を知っている咲良は、そのイメージを涼介に当てはめるなといっているのだ。



「別に、恵介君を悪く言うつもりはないよ。


　私は、恵介君を悪く言うほど、恵介君の事を知ってるわけじゃない。


　それに、本当に嫌な人なら、お兄ちゃんの友達なはずは無い。



　涼介君は、私の友達だよ。お兄ちゃんは、信じれないの？」



咲良の勝ちだ。



黙って見つめ合う二人。



涼介は、ものすごく気まずい状況はどうしようかと考えていると、



「家の前で何やってるんだ？」


横から声が聞こえて来た。


そこにいたのは、司よりもさらに背の高い、２０代であろう大人の男であった。


「あれ。彰君、デートは？」


彰という名前で咲良の一番上の兄だという事がわかった。


スーツ姿の彰は、見るからに仕事が出来そうな雰囲気で、オーラが半端ではない。



司より男らしいその顔立ちだが、司より、穏やかさそうな雰囲気を持ち、大人の余裕の様なものがある。



「明日、二人とも仕事だから、早めに帰って来た。」


そう説明しながら、司、咲良、涼介の顔を順番に見つめ、尋ねた。


「で、何やってるの？」


「こちらは、糸井涼介君。私のクラスメイトなの。司君の友達の恵介君の弟でもあるんだよ

　今日は、家に誰もいなかったから、涼介君が夕食に誘ってくれて、今送って来てもらったことなの。」


咲良の言葉と、司と涼介の表情を見て、状況を理解した彰。


「あぁ、糸井恵介君ね。そう言えばちょっと似てるね。」


微笑みながら、涼介に言った。