難攻不落な彼女
何も言わず、見つめ合う涼介と咲良。
「あっ!もしかして、ジャムついてる?」
咲良は、いきなりそう言うと、自分の口元を拭った。
焦ったようなその動きは、咲良の見た目とはギャップがり、涼介は驚いた。
「とれた?」
そう言いながら、こちらに微笑む咲良の表情は人なつっこさがあり、涼介は増々魅入られつつも、笑ってしまった。
「ご、ごめん、何もついてないよ。」
クスクス笑いながら言う涼介の言葉に、
「あ、そうなの?何かめっちゃ見られるから、何かついてるのかと思った。
良かった。家から30分もあるのに、ジャムがついたままとか、恥ずかしい人になるとこだった」
と、ホッとしたように笑った。
「ごめんごめん。俺、鈴木さんの隣の席なんだけど、ちょうど『鈴木さんってどんな人かな?』って話してたとこだったから、ついつい見てしまいました。」
『綺麗な顔に見とれてたんだよ』普段ならそう言うはずなのに、言えなかった。
それは、本当に見とれていたから恥ずかしくて誤摩化したのか、それとも他に理由があるのか、この時の涼介にはわからなかった。