君と、優しくて愛しい日々を。
月夜の翡翠と貴方 【偶然を必然にしたのは】
「ルトは、どうして翡翠葛のことを知ってたの?」
ジェイドに、そう尋ねられたことがある。
確か、ミューザの街に用があって、ついでにエルフォード邸に顔を出したあとだった。
相変わらず高い本棚が並ぶリロザの部屋を見て、俺が『よくこんなもん読めるなぁ』とこぼしたから。
知っての通りというか、まぁ当然ではあるのだが、俺はそんなに頭も良くない。
そもそも生まれも育ちも庶民以下である俺が、本なんかに馴染めるはずもなく。
もちろん、珍しい植物の名前なんか、知るわけがないのだ。
そんな俺が、何故か翡翠葛だけは知っていた。
俺が本など読むような人間でないことを知っているジェイドは、不思議に思ったのだろう。
問題なのは、俺自身も理由がわからないということだった。
いや、きっと何かきっかけがあって、知ったんだ。
それだけはわかる。
思い出せるような、そうでないような。
幼い頃の記憶を探って探って、その日の晩は気になってなかなか寝付けなかった。
けれど、やはりきっかけがあったのは確かだったようで。
その後に見た夢は、鮮明なものだった。