君と、優しくて愛しい日々を。
しかしそれにしても、やることがない。
思わず愚痴をこぼした俺に、当時十六歳のミラゼが、『静かにしなさいよ』と唇を尖らせた。
『これも仕事なのよ。こういうときの退屈でも集中を切らさない人間にならないと、この世界じゃすぐに死ぬわよ』
そう言って、ミラゼは木の枝と生い茂る葉の隙間から、窓を見つめる。
…上級貴族からの依頼だからか、その日のミラゼはピリピリしていた。
今の俺ならそれも仕方が無いとわかるのだが、当時の俺はまだ幼く、危機感もなかったから。
何か面白いもんないかなぁ、なんて、ふと地面の方へ目を向けて。
俺はそのとき『はじめて』、目に映した。
その、色を。
『…み、ミラゼ……見ろよ、あの子』
庭に設けられたベンチに腰掛けて、俺と同じくらいの年齢の少女が、本を読んでいる。
俺はその髪の色に、驚かずにはいられなかった。
『ん?なに……ああ。きっと、リズパナリの令嬢ね』
青なのか、緑なのか。
当時の俺が知ってる色の名前では、言い表せなかった。