切れない鎖
プロローグ
「その子を私によこしなさい。そうすれば貴方の家を変えてあげよう」
低い声が響く。
「し、しかし、大切な子なんです!」
「ならば、貴方の家は飢え死にするのでしょうな。その子もね」
薄暗い場所で話す男が二人。
幼い子供もいる。
怯えた様子の男はどうやら子供の父親らしい。
そして面白そうに話す帽子を被った男。
「うえじに?」
父親らしき男に子供は尋ねる。
しかしその男は怯えた様子で何も答えない。
「パパン?」
次第に子供の顔も不安になっていく。
「渡さないようなら、この話はなしで……」
「待ってくれ!」
父親らしき男は帽子を被った男を引き留めた。
「この子を、この子を渡すから、どうか、家を……救ってくれ……」
「そうですか!さぁこっちへおいで?」
帽子の男は子供の腕を引き寄せた。
父親は感情の読めない目でそれを見つめる。
しかし子供はいやいやをして、父親の足にしがみつく。
それを帽子の男は無理やり引き剥がした。
「パパン!パパン!」
子供の叫び声が響いた。
「パパン!パパン!パパン!」
その声も次第に、聞こえなくなっていった。
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