イクメンな彼氏
本当はもっと先伸ばしにしたい。

ホワイトデーの頃には随分暖かくなって、春の陽気の日も増えることだろう。

心の準備をするのには正直いって一ヶ月ではとても足りない。

それでも『暖かくなったら』と言ったのは、これ以上彼を待たせたくないからだった。

「話を聞いてもらった後も悠斗さんの気持ちが変わらなかったら……。
その時もう一度、悠斗さんと……」

彼のマンションで話すと涙が零れそうで、ここで話すことにした。

休日の『green express』は高速バスで到着した人たちで賑わっている。
この騒がしさが、溢れ出す気持ちを止めてくれている気がする。

「悠斗さんに全部見て欲しいんです。
私のこと……」

内容が内容なだけに最後の方は消え入りそうな声になってしまった。
窓に向かって並んで座る二人の会話に、聞き耳を立てている人なんていないだろうけど。

「急がなくていいよ。
春でも、夏でもいい。俺はいつでも比奈と一緒だから」

私の彼は超能力者で、本当は何もかも知っているんじゃないかと思う時がある。

『話したい事』については全く触れずに私を安心させる言葉だけを紡ぐ唇を見つめながら、私は決心を固めていったーー。
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