イクメンな彼氏
「あの……私……すいません」
私は一歩下がってうなだれることしかできない。
心の中にはさっきの「うるせーんだよ!!」という声が何度も反響する。

「階段ですれ違った男の人が、ガキはうるさいから、とかブツブツ言ってたんだ。もしかして、悠理花のことで何か言われた?」
中津さんの声は優しい。私を気遣ってくれて、悠理花ちゃんを泣かせていたことを責める様子は微塵もない。

私は重い口を開いた。
「私、男の人が怖くて……ごめんなさい。優理花ちゃんを泣かせてしまって……」

「こっちこそ、悠理花を頼んだせいでごめん。あの……俺のことも……怖い?」

真摯な表情で見つめられて私は、慌てて首を振る。

「中津さんのことは、怖くなんかありません。だって、可愛い悠理花ちゃんのお父さんなんですから」
笑顔を作ってみせると、一瞬困惑したような表情になった気がしたけど、すぐにふっと息を吐いて笑顔になる。

「そうか……そうだね。
ごめんね。変なこと言っちゃったね」

何となく気まずい思いで朝食を済ませ、店を出て別れる。

歩き出した私の背中に「またね」という声がかけられた。
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