イクメンな彼氏
「帰り、通り道だからって、あの、言われて、あの……ごめんなさい……」

声が震えているのが自分でもわかった。
気付いてしまうと身体も震えだす。

どうしよう……
悠斗さん怒ってる。
私軽率なことしちゃったんだ。

「ごめんなさい……ごめんなさい……
藤本さんとは何もなくて、本当に、たまたま道が同じだっただけで……」

困惑と戸惑いの中、悠斗さんに誤解されたくない一心で言葉を絞り出す。

「わかってる。比奈が俺を裏切ってないことは本当はわかってるんだ。
俺は比奈のこと信じてる」

悠斗さんの声が掠れてる。
信じてると言ってもらっているのに、
なぜだろう、不安が胸に広がる。

「比奈」
手首から力が抜けて反射的に顔を上げると、眉を寄せた悠斗さんと目が合った。

「少し……距離を置きたい。
ごめん。一人で考えたいんだ」

え……?
考える……?

受け入れられない言葉に固まる私を余所に、悠斗さんは目を逸らして私から離れた。

嫌だ。
嫌、悠斗さんと離れるなんて嫌だ。

「待って」

スーツの裾を掴んだけれど彼は振り返ることなく、背を向けて歩き出した。

「ごめん……」

背中ごしに呟いて早足になり、角の向こうに消えてしまった。
私の足は動かない。

彼の無言の強い拒否に、近づくことが出来なかった。
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