イクメンな彼氏
私は怪訝そうな藤本さんの声でハッとした。
「どうしたの?」
「すみません、知り合いかと思って……勘違いでした」

顔は見えなかったけど、赤ちゃんを抱いているのにハイヒールにかっちりしたスーツで、仕事ができる人って感じだった。

家族で一緒に働いてるって言ってたもんね、当然奥さんも一緒に働いてるんだ。

スタイルのいい二人、お似合い……きっと美人なんだろうな。

「まだ何か気になることでもある? 打ち合わせ、始めてもいい?」

ため息混じりの声が聞こえ、私は頭から中津さんを振り払った。
「すみません。大丈夫です。運動会委員は初めてで……わからないことだらけですがよろしくお願いします」

藤本さんは去年のプログラムのしおりを手渡しながら、委員の仕事を説明してくれる。

「担任の先生に任せられるところはお願いしても構わないよ。全部二人でするのは無理だからね。でも、必ず僕たちがしなくてはいけないこともあってね」

私達が決めなくてはならないのはプログラムの順番、それぞれ担当するクラスだ。プログラムの内容は、リレー、ダンス等大まかに決めておいて各担任に振ればいいということだった。

「それでね、今までは年長クラスの出場種目がかなり多かっただろう?
それに保護者からのクレームがあってね。今年は各学年平等にしようと思うんだけど……どうかな?」

言いにくそうに切り出す藤本さん。
確かに毎年、年長クラスの出場種目は五種目で、他のクラスの三種目よりも多い。
保育園最後の運動会だから、成長を保護者の方々に感じてもらおうと思ってのことだ。

それに年長クラスになると、身体の成長が進み難しい種目にチャレンジできるようになる。体力も下のクラスとは違う。

正直なところ私は反対だ。
三種目で年長クラスの良さを表すのは、不十分だと思う。

だけど……私はうつむいたまま口ごもる。
自分の意見を人に伝えるのは苦手だ。
相手が男性なら尚更。

……だめだ。やっぱり言えない。

しばらく私の返答を待っていた様子の藤本さんだったけれど、沈黙を肯定だと受け取ったらしい。

「それじゃ、平等でいいってことでいいよね。じゃあ具体的なことはお互い宿題にして、ゆっくり食事でも楽しもうか」

藤本さんが少し強引に話を進めていく様子を見ながら、私はもやもやとした気持ちを抱えていた。
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