イクメンな彼氏
店を出ると完全に日は落ちていたけど、辺りはビルの照明で明るかった。
夏の夜は長い。遠くのビアガーデンのネオンが光り、駅よりも街の中心地に向かって歩く人の方が多い。
「遅くなっちゃったね。家まで送るよ」
店の前で、藤本さんが囁いた。
運動会の打ち合わせの後は仕事の話は抜きにしよう、と雑談をして過ごした。
就職して一年と少し、藤本さんと話したことは数えるほどだった。
私はほとんど頷くだけだったけど、彼は意外とよく喋る人で人にものを教えるのが好きなんだと言っていた。
教員免許も持ってるそうだけど、どうして保育士を選んだんだろう。
人当たりがよくて保護者に人気もあるけど、何となく子どもが好きだという理由には思えなかった。
私は慌てて彼から離れ、「大丈夫です。すぐ近くですから」と断る。
それでも彼は心配そうな表情で強く言った。
「こんな時間に女の人一人で帰せないだろ。いいから、どっち?」
そこまで言われると断れずに「すみません、あの……こっちです」と、彼の先に立って歩き出す。
仕方ない。
家まで送ってもらって、早く別れよう。
二人は無言で歩く。男の人と二人きりの状況に緊張して斜め後ろの彼を振り返ることができない。
3分ほど歩くと、見慣れたコンビニの看板が見えてきた。
「コンビニの角を曲がったらすぐなので、ありがとうございました」
立ち止まって振り返り、大きく頭を下げる。一瞬見えた藤本さんの顔は優しかったけれど、私の心はざわついた。
頭を下げていたのは数秒だったけれど、私は背中にじっとりと汗をかいてしまっていた。
「また誘うよ。今度は仕事抜きでね」と見せた笑顔はいつも通りで、私はホッとして彼の背中を送り、自分の部屋へと戻った。
やっぱり男の人は苦手だ。
運動会……気が重いな、と私はため息をついた。
夏の夜は長い。遠くのビアガーデンのネオンが光り、駅よりも街の中心地に向かって歩く人の方が多い。
「遅くなっちゃったね。家まで送るよ」
店の前で、藤本さんが囁いた。
運動会の打ち合わせの後は仕事の話は抜きにしよう、と雑談をして過ごした。
就職して一年と少し、藤本さんと話したことは数えるほどだった。
私はほとんど頷くだけだったけど、彼は意外とよく喋る人で人にものを教えるのが好きなんだと言っていた。
教員免許も持ってるそうだけど、どうして保育士を選んだんだろう。
人当たりがよくて保護者に人気もあるけど、何となく子どもが好きだという理由には思えなかった。
私は慌てて彼から離れ、「大丈夫です。すぐ近くですから」と断る。
それでも彼は心配そうな表情で強く言った。
「こんな時間に女の人一人で帰せないだろ。いいから、どっち?」
そこまで言われると断れずに「すみません、あの……こっちです」と、彼の先に立って歩き出す。
仕方ない。
家まで送ってもらって、早く別れよう。
二人は無言で歩く。男の人と二人きりの状況に緊張して斜め後ろの彼を振り返ることができない。
3分ほど歩くと、見慣れたコンビニの看板が見えてきた。
「コンビニの角を曲がったらすぐなので、ありがとうございました」
立ち止まって振り返り、大きく頭を下げる。一瞬見えた藤本さんの顔は優しかったけれど、私の心はざわついた。
頭を下げていたのは数秒だったけれど、私は背中にじっとりと汗をかいてしまっていた。
「また誘うよ。今度は仕事抜きでね」と見せた笑顔はいつも通りで、私はホッとして彼の背中を送り、自分の部屋へと戻った。
やっぱり男の人は苦手だ。
運動会……気が重いな、と私はため息をついた。