イクメンな彼氏
「あんまり目立ちたくないんだ。手間かけさせんな」
苛立った声で私を睨み、洋介は私を引き摺るように歩かせる。

それでも抵抗しようとすると、「保育園で働いてんだってな? これ以上抵抗するんなら、お前の可愛い園児に身代わりになってもらうけど?」という冷たい声が響き、私は抵抗していた手を止める。

「子ども達には手を出さないで」震える声で懇願すると、「それはお前の次第だろ」と満足したようにやりと笑って、大通りに出ると、手を挙げてタクシーを止めた。

財布だけ抜き取って私の鞄を道に放り投げると、タクシーに私を押し込み、自分も乗り込んできた。

「空港まで」

空港……?
疑問が頭をよぎるけれど、園児を人質にとられた私は抵抗も出来ず黙ったまま身を固くする。

やっぱり洋介から逃げるなんて無理だったんだ。この人に逆らっちゃだめだ。
怖い。
怖いよ……。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」
いつの間にか呟いていた私は、もう洋介に抵抗する気など欠片もなくなっていた。
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