イクメンな彼氏
「腹減ったなぁ」
帽子を深くかぶり直して、近くにあったカフェに入っていく洋介を追いかけて私も店内に足を踏み入れる。

ずんずんと奥の席に向かっていく彼は私の方を振り向きもしない。いつも私たちはこう、私は彼の三歩後ろを着いていくのが当たり前のことだった。

ここで踵を返して走り出せば逃げられるのかもしれない。

頭に浮かんだ思いはすぐに消える。
7年も経った今、私に会いに来た洋介から逃げられる気はしない。

また見つかって殴られることになる。
それならば彼の人形に戻った方がましだった。

「カルボナーラと、海老のトマトソースパスタのセットで」
過去の記憶が鮮明に甦る。勝手に注文するのもいつものこと。
私が苦手な海老を選んだのはわざとじゃなくて、自分の好きなものを選んだだけ。

そもそも彼は、私の好きなものも嫌いなものも知らない。
< 196 / 232 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop