イクメンな彼氏
搭乗の手続きを済ませて待合室のソファーに腰かける。平日の遅い時間なだけあって、周囲は人がまばらだ。

何も話さず動こうともしない私に目をやり、満足そうに洋介が笑いかけてきた。

「やっぱり比奈だけだよ。俺のことをわかってくれるのは。
逃げようとしたことは許してあげる」

許す、という言葉に私も笑みを浮かべて言葉を返す。「ありがとう」とそれだけ。
それだけで十分。

洋介はまた満足そうに私を見た後、ご機嫌で饒舌になる。
つまらない話。
どうでもいい話。

私は微笑みを浮かべたままでただ頷くだけ。洋介はそんな私が好きだから。

高校生3年生の終わり頃を思い出す。

洋介以外の男性とは決して口をきかず、女性店員しかいない店で買い物をし、いつでも彼の目の届くところにいれば彼は満足だった。

つまらないことで手を上げられることもあったけれど、随分と彼の気に入る行動が出来るようになっていた。

あの頃のように動けば大丈夫。
心を殺して、何も考えずに、彼の表情だけを見ていればいい。

「北海道はもう雪かな。温かい服を買わなくちゃいけないね。比奈の分も買ってあげるよ」
私の財布は彼のものなのだから、買って貰えることに感謝しなくては。

「ありがとう」
私はまた微笑んでそれだけを答える。
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