イクメンな彼氏
口を開きかけた時、腹部に起こった衝撃でむせ込み何も話せなくなり、膝が折れて地面に落ち、両手をつく。

「ごほっ……ごほっ……」

洋介は氷のような目で私を見下ろしたま、お構い無しに同じ場所を蹴りあげる。こんなに怒っているのは初めて見た。

怖い。
殺されるかもしれない。

だけど洋介の言いなりになるのも、ここで殺されるのも同じ事。

私がいなくなったら、悠斗さん、悲しんでくれるのかな。なんて、私、そんなことを思う余裕があるんだ。

息が止まりそうな激痛の中、私は洋介を睨みつけた。

「い、くら蹴られたって……言いなりに、なんか、ならない……」
そうだ、洋介の言いなりになるくらいならこのまま蹴られて死んだ方がましだ。

悠斗さんの顔が浮かんでは消える。
……もう、なにも、かんがえられない……。

「比奈っ」
遠くで悠斗さんの声が聞こえた気がした。
聞きたいと思ってたから、幻聴まで聞こえるのかな。

最後に悠斗さんの声が聞けるのなら、私は幸せなのかもしれない……。

「比奈っ!! 比奈っ!!」
意識を手放しかけた時、身体への衝撃が消え去り温かい腕が私を包んでいた。何よりも欲しかった、大切な、悠斗さんの腕……。

失いかけていた意識がはっきりとして、焦点の合った目には悠斗さんが映る。
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